夢想

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「……イジメてないよ」  しばらくの沈黙の後、クラスのリーダー的存在である山浜さんが呟くようにそう言った。 「ダメよ、野谷さん。同じクラスメイトを疑っちゃ。 私達、仲間でしょ」 なんの仲間ですか。 とは思いはしたけれど、ここでそれを言って状況を悪化させる程私も馬鹿じゃない。 「うん、ごめん」 「いいのよ気にしないで」 山浜さんはそう言って笑顔を浮かべると、崎原さんに向き直った。 「崎原さん、教室に帰ろう」 それに、崎原さんは何度か挙動不審に辺りを見渡し、 「ごめん、ちょっと気分が悪いから、保健室に」 「え、大丈夫なの?着いていくわよ」 「あ、いいから、一人で行けるから」 「でも、」 「本当に、大丈夫。 先に教室に帰っていいよ」 「そう……」  残念そうに呟いた山浜さんは、今度はまた私に向き直る。 忙しい人。 「野谷さんも帰りましょう」 「私もちょっと寄るところがあるから」 行っていいよ。 ちらりと崎原さんを見遣りながらそう告げると、彼女はピクリと身を強張らせた。 ……うん、これは重傷だ。 「寄るところって?」 「まあちょっと」 「……ふぅん」  ――あまり、納得はしてくれていないらしい。 不満げな声をあげつつも、それでも昼休み終了の予鈴が鳴ったために彼女は仕方なしといった具合に引き返していった。 その後ろにぞろぞろと女子が着いて行き、辺りは先程と相反し、閑散となる。 「野谷さん、は行かないの?」  恐る恐るといった具合に小さな声がそんな問い掛けを投げてきた。 「行ってほしいの」 「え、え、そんなつもりじゃ、ない……」 ……恐がらせるつもりはなかったんだけど。 どうにも上手くいかないものだ。 「えーと、……ちょっとね、崎原さんに聞きたいことがあって」 「う、ん…?」 「イジメられてるんでしょ」 酷く不安げな表情を更にもう泣きそうに歪めたのが目に焼き付いた。
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