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静かに紫苑はその椿だけを取り、部屋をでた。
「紫苑さん?どうかなさいましたか?」
部屋を出るなり、家政婦の恭子が声をかけてきた。
「いえ、今朝生けた白椿の中に、紅い椿が一輪だけ紛れていたんだ。」
「おや、それは可笑しな事ですね?」
恭子は頬に手を当て、首を傾げてこう、呟いた。「その部屋には今朝、紫苑さんが入ってから、誰も入っていないはず…。」と。
紫苑は寒気がした。恭子の話によれば、部屋の鍵は紫苑以外に恭子がずっと持っていた為、恭子から鍵を借りなくては開ける事は不可能だと言う。
「恭子さん、兄さんは?」
「新哉さんなら、寒気がするとかで、部屋に…」
「ありがとうございます。あと、これは、気味が悪いのでお隣の薫さんに視せて来てください。」
紫苑はそう言い、恭子に椿を手渡した。
「紫苑さん、どちらへ?」
「兄さんの様子を見て来ます。もしかしたら、風邪かもしれませんので…。」
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