君は何の為に石を積んでいるんだい?

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とある小さな国の小さな村で、少年は言いました。 「人間は毎日のように争いを繰り返して、毎日のように人が死んでいく。こんな小さな村で慎ましく暮らしていた人々でさえ、何の関係もない争いに巻き込まれて死んでいくのだ。神様はなんて無慈悲なのだろう。」 心優しい少年は、人々の死に様を見て嘆き悲しみ、そしてまた言いました。 「僕は神様に会いに行く。そして、僕が世界を変えてみせる。」 少年は村の人々の制止を振り切り、大地に石を積み始めました。昼も夜も休まず石を積み続け、その塔はやがて、地上からでは先が見えないほどの高さになりました。 少年はいつの間にか青年になり、長い月日が流れました。誰の手も借りずに積み上げたその塔の上で、青年はさらに石を積み続けました。 どんどんと天に近づく青年の元に、ある朝天使が現れて尋ねました。 「君は何の為に石を積んでいるんだい?」 青年は手を休めずに答えました。 「僕は争いで死んでいく人々の為に石を積んでいる。僕は神様に会って、皆が幸せに暮らせる世界を創るんだ。」 「そうかい。それはなかなか殊勝な心掛けだね。」 少年の姿をした天使は感心したように頷くと、またどこかへ飛んでいきました。 それから何十年もの月日が流れ、青年は中年になっていました。さらに高くなった塔の上で石を積み続ける彼の元に、あの天使がまた現れて尋ねました。 「君は何の為に石を積んでいるんだい?」 男は手を止め、言い聞かせるように答えました。 「僕は…僕は、世界を変える為に石を積んでいる。」 「そうかい。それはなかなか面白い考えだね。」 天使は感慨深そうに頷くと、またどこかへ飛んでいきました。 また何十年もの月日が流れ、天使が塔を訪れると、そこにはもう石を積み続ける男の姿はありませんでした。天使は、塔の上にあった骨と皮ばかりの老人の死体を見下ろして、語りかけるように言いました。 「例え一生を費やして努力しようとも、所詮この理不尽で不平等な世界でしか生きることのできない君たちは、――…いや、」 天使は少し哀しげに、自嘲の混じった笑みを浮かべて呟きました。 「僕たちは世界を変えることができない。」
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