プロローグ

2/2
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
プロローグ あなたが、あたしの前から消えたのは。 去年の、12月26日。 つまり、クリスマスの翌日のことだった。 五反田駅から、ほんのちょっとだけ歩いた場所にある。 普通の路地に突然に姿を現す、そのオシャレなレストランで。 あたしとあなたは、去年のクリスマスイヴの夜を一緒に過ごした。 『ファイヤーママ』という、そのお店は。 「大仁田厚さんのお母さんがやってるんだよ!」って。 あなたが昔、教えてくれたんだっけ……。 「赤ワインを飲むと、さ。舌が真っ赤になるだろ?まるでこの店の名前みたいに。そう、炎みたいにさ……」 なんて。 あなたは、そんなことを言いながら、真っ赤になった舌をペロっと出して見せた。 炎、か……。 あのころ、確かにあたしの恋の炎は燃え上がっていたんだ。 あたしは右手の人差し指で、やっと肩まで伸びた髪をくるくるっと遊ぶ。 あれから、もう一年が経つんだね……。 そんなことを、考えながら。 あたしは、あの夜と同じように。 赤ワインとイベリコ豚のロースをオーダーする。 それは、あなたが好きなメニューだった。 幸せだった、あのころ。 あなたと一緒に食べた、この組み合わせは。 あたしのラッキーメニューだった。 あたしは、髪をいじりながら。 壁と同じ、クリーム色をベースにしたお店の中を、ゆっくりと見渡した。 豊富に配置された観葉植物たちが、目に優しい。 そんな、落ち着いた雰囲気が。 不安なあたしの心を、少しだけ癒やしてくれた。 あなたは、本当に来るのだろうか? あたしは不確かな約束を信じて、またこのお店にやって来た。 もし、本当にあなたが来てくれたのなら。 今度は絶対にあなたを離さない、って。 そのとき、あたしはそう決めていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!