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3. あたしは、ファイヤーママのテーブルに座って。 あなたを、待ち続ける。 右手に巻いたグッチの時計を見る。 約束の8時まで、あと15分。 時間に正確な、あなたのことだから。 きっと今日も、時間ぴったりに現れるに違いない。 でも。 やはり、あたしは不安だった。 だけど、あたしは。 あなたのことを、信じようと思った。 あのとき。 あなたはきっと、あたしの仕事のことを考えてくれたんだ、って。 あたしは、分かっていたから。 だから、あたしを。 あなたは、連れて行かなかったんだ、って。 でも、ね。 あたし、分かったの。 あたしの夢は、仕事だけじゃないんだ、って。 あなたがいないと、やっぱりダメなんだ、って。 この一年、あたしはそのことをイヤになるほど感じていたから。 今度は何があっても、あなたとは離れない、って。 あたしは決心していた。 時計の針が、8時を過ぎる。 5分過ぎても、10分過ぎても。 あなたは、現れなかった。 やっぱり。 あなたは、来ないつもりなんだ……。 あたしは、グラスの赤ワインを飲み干して。 ゆっくりと、ひとつため息をついた。 これで良かったんだ。 ううん。 これで良かったと思わなきゃ。 ひと粒の涙が、あたしの頬を伝って落ちた。 そのとき。 ファイヤーママの入り口に立つあなたの姿を。 あたしは、見つけた。 来たっ!? ハァハァと、息を切らせたあなたが。 私のテーブルまで、ゆっくりと近づいてくる。 「遅れて、ゴメン。……今日は良い日?」 そう言いながら、ニッコリと微笑むあなたに。 あたしは、思いっきりアッカンベーをした。 「真っ赤な舌だな。まるで炎みたいだ!」と、あなたが笑う。 釣られて、あたしも笑った。 あなたは、イベリコ豚のロースをつまみながら。 赤ワインを、おいしそうに飲む。 そして。 あなたはあたしに、この一年の話を聞かせてくれた。 降り始めた雪が、五反田の街を白く染めていく。 クリスマスイヴの、今日からまた。 あたしの恋の炎も、また燃え上がる。 そして。 きっと、これから本物の。 あたしとあなたの幸せな時間が、始まるんだ……。 『あなたを待ち続けて~Fire X'mas!』 by Hiroto Izumi 2007
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