Heaven in my hand

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恐らく、カールという少年の何が幸福だったのかというと、生まれてこのかた十七年間『魔法』という素晴らしい技術に関して何も知らずに生きてこれたことだ。 カールが人並み外れて無知だったわけではないし、『魔法』がそれ程特別だったわけでもない。 少なくとも、カールは街の学校でどちらかといえば優等生の部類だったし、『魔法』はその辺で起きる交通事故くらいにはありふれたものだった。 それにも関わらず『魔法』に触れたことが一切ないカールの人生は、幸運以外の何者でもない。 カール自身もそれを幸運だと思っていたし、『魔法』を知らないことを不幸だとも恥だとも思ってはいなかった。 そんなカールが十八歳で『魔法』を目の当たりにしたことも、やはり幸運なことだったのだろう。 少なくとも、カール自身はそう思っていた。 ―――― 「だから少し安くならないかって言ってんだろ!最近仕入れ値がべらぼうに高くなってんだろうが!」 「仕方ないだろう、それだけ仕入れが大変なんだ。街道で魔法使いが出たって話でさ」 「嘘こけ!!そうそう魔法使いが虫けらみたいにわらわら出てきてたまるかってんだ!!」 店の主人の親父が、旅の行商人に怒鳴り散らすのを聞きながら、カールはそりゃごもっとも、とぼやく。 第一、魔法使いなど本当にいるかも疑わしい。 口から火を吹き、翼も無いのに空を飛び、天地を逆さにし、死んだ者すら呼び覚ます。 そんな出鱈目な連中が、野良犬か何かのようにそこらをうろついていたとしたら、この世界はとうの昔に破滅しているはずだ。 しかし、全くの空想上の存在だと切り捨てることができない。伝説にしては、魔法使いに関する生きた話は多過ぎた。 『いるけど知らない』 そんな、ある種の都市伝説のような存在だった。
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