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「おいこら、カール!ぼさっとしとらんで、さっさとこいつを運ばんかい!!」
カールに店先の片付けを命じたその舌先の乾かぬ内に、店主がまた怒鳴った。
この親父の短気は今に始まったことでもないので、まともに取り合うだけ損だということはよく知っている。
「へいへい、ただいま参りますよー」
「ちゃきちゃき動かんかいこのグズが!」
この親父に限っては息をするように悪態をつくので、カールは端から耳を貸していない。へいへいと適当に聞き流して、行商人から買い取った荷物の整理に取り掛かった。
「よう、カール。相変わらずおやっさんに怒鳴られっぱなしだな」
のろのろと取り掛かると、行商人――名前は確かローズだった――に腹の立つ笑みを向けられた。
「かっ、あのド短気親父に怒鳴られない奴がいるかって話だよ。ローズの旦那だって今しがた怒鳴られてただろうが」
悪し様に言うが、もう親父は足音荒く店の奥に引っ込んでしまった後だ。怒鳴られる心配もない。
「まあねぇ。カールからも言っといてくれよ、最近ここらも物騒なんだぞ、ってな」
無理な話だ。
そんなことを言って聞く訳がない。
あの親父ときたら、自分が『ない』と決め付けたことは絶対に信じようとはしないのだから。
だからあの親父の中では、自分は短気じゃ『ない』し、頑丈だから病気にもなら『ない』と思ってる。町が物騒なんてことは有り得『ない』し、魔法なんて胡散臭いものも存在し『ない』のだ。
……偏屈というか頑固というか。ここまで自分主義の人間を、カールはこの親父以外に知らない。
「ごめん被るぜ。あのクソジジイにそんなこと言って無駄に殴られんのは嫌だからな」
しっかり束ねられた革の外套の束を、ローズの荷馬車から引きずり下ろして担ぐ。大分量がある。これを全て一人でやれと言うのだから店の親父も無茶苦茶である。
「冷たいなぁ。その分僕の苦労が増えるんだけど」
「俺はその苦労の原因の店で働いてんだ。行商人のあんたと違って毎日親父と顔突き合わせてんだぞ?」
「そりゃさぞ気苦労が絶えないだろうね」
全くだ。
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