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そうやって見ているとあいつは鞄から何かを取り出す。
「何なんだ……お供え物か?あれ。」
よく見ると鞄から出てきた物は何やら小さな缶みたいな物で、両手で必死に開けている。かわいい……じゃない。
…エサ?
見るとそれはどうやら市販の猫の餌らしく、頑張って開けたその餌を猫の前に置いていた。
「……あれ、捨て猫か…」
必死にその餌を食べる猫は段ボールの中に入れられていて、うっすら手紙のような物がチラチラはみ出ている。
それを見て彼女も微笑む。一向に願い事を言うそぶりは見せない!
じゃ、じゃあ猫を探していたんじゃなくて餌をあげる為にここへ来ていたって事?……!
よ、良かったぁぁぁぁ……。
下が砂利道なのもお構い無しにへたりこみ、心から安心。大きなため息が出た。
「…………ん?」
ふと、その安堵のため息と同時に向こうから独り言が聞こえてきた。どうやら猫に話しかけているんだろうか。
「………………………そっか。」
彼女の独り言を聞いた事に罪悪感を感じる。
もう辺りは真っ暗。けど何故かあいつの周りだけが明るく感じる。
僕の周りを強い風が通り、それと同時に思い出した。
急に自分があの日言った事がむず痒くなって、何か居ても立ってもいられなくなる。
「……謝ろう。」
ふと無意識に僕はそう言う。
そして、彼女の元へと歩いていく。
何かが吹っ切れた。そう言っても過言ではないだろうな。もう何を言われてもいいや。
そして通り抜けた風を掴むように両手を握って。
この緊張を悟られないように堂々と歩きだす。
また明日から話出来ればいいな、なんて思いながら。
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