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一条 瑞木。僕の名前。
散々悪事をやらかして母さんを見殺しにして借金の片受に僕を売った父が付けた名前。
今より小さい頃はまだ確かに幸せだったかもしれない。母の温かい腕の中に守られて、僕は安心して眠ることが出来た。
どうして居なくなってしまったのか。
僕に母を救えるだけの力がなかったからいけないのか。
母に守られてきたくせに守ることが出来なかったから僕はこんな所に居るのだろうか。
外国にでも売り飛ばされてしまうのかと思った。子供の持つ身売りのイメージなんてそんなもので。
暗い部屋に閉じ込められて膝を抱えて泣くしかできなかった。これから起こることに怯えて震えていた。
誰も来ず、何も与えられずに長い時間がたった頃、僕が触ってもピクリとも動かなかった鉄の冷たい扉が開いた。
父の古い知り合いだと言う人が僕を救ってくれた。
顔も良く見えないままその男の人に手を引かれて大きな車に乗せられた。そして僕は再び光の中へ。
過ぎ去っていく景色の中に頭を揺らす色とりどりの花を見た。
今は温かい季節なんだと、そこで初めて知った。
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