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この教室は16人しかいないと初めから聞いていた。だけど、ここに君がいるなんて思ってなくて。
目を合わせずに黒板に書いてある座席表を確認する。
ほんとに今日はついてないと思った。
いや、あの頃の私だったら、きっとついていたと思うかもしれない。
でも、今は、今の私は、―
表現は変えないで、こじぱに近付く。
あの頃の笑顔は見せちゃいけない。
そこは、日当たりのいい席だった。
そして彼女の隣の席だった。
まだふたりだけの空間。
距離が近いせいで心臓の音が聞こえてしまいそう。
こじぱが顔をこっちへ向ける。
私は気付かないフリをして、空を見上げる。
「…ごめんね、あまりに似てたから、」
空はこんな日に限っていつも綺麗だ。
顔は見えないけど、どんな表情をしてるかなんて、私には分かる。
空に背を向け、こじぱを見たら。
やっぱり切なそうな顔していて、だけど、少し驚いて。
きっと近くの私は、余程似ていたんだと思う。でも、私はその子で。その子じゃないから。
「…、大丈夫だよ、小嶋さん」
少し笑ってそう言えば、やっぱり少し切なそうな顔をして。
こじぱって呼んだら、なんて応えてくれるんだろう、とか。またあの頃の笑顔で笑えるのかな、とか。
そんなこと出来るはずないのに。
「ねぇ、なんて呼んだらいい?」
「…んー、そうだなー」
「…、優ちゃ────」
「じゃあ、優子で」
空はやっぱりまだ青い。
優ちゃんって呼ぼうとする君は、私なんだか、嫌だから。
初めてここで出逢ったみたいに、君と笑っていきたいの。
そして、できれば君とはなるべく関わらないように。
少し開けた窓から入ってきた春風が君の髪を靡かせる。
私は、あの頃を思い出してしまいそうで。
教室の日当たりのいいこの席で、誰にも気付かれないように、少し泣いた。
──────────────君の隣。
end…
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