186人が本棚に入れています
本棚に追加
いってきます。なんて、言う時間さえないくらいの大遅刻。
「…、あーもう、いきなり遅刻か、」
なんて。飛び出した家だったけど、君と偶然、運命のような出逢いをしたから。
私は、珍しく。
遅刻もいいかも、なんて思った。
──────────────君と通学路。
どたばた。どたばた。
階段を急いで下りた私は何も言わずに家を飛び出す。
今日から高校生なんて、全く実感のない私。
「急がなきゃ、…」って。
お母さんに持たされたパンを片手に走る。
すっかり春色に染まったいつもと変わらない住宅街。
綺麗な淡いピンク色をした桜を少し見上げながら走っていると、目の前に人が突然現れた。もうその時点で時既に遅し。
「ぅわっ…、」
「…、きゃっ」
暖かいアスファルトに尻をつく。
手に持っていたパンも地面に放り出されて。
ぶつかった子に気付かれないよう少しため息をついた。それから、身体を起こして立ち上がり、ぶつかったその子に手を差しのべる。
「いてて、…すいません、大丈夫ですか?」
「あっ、こちらこそ、すいません…」
彼女は手をパンパンと叩いて顔をあげた。
少し上目遣いになるこの位置。
春風で桜が舞って、彼女の髪を靡かせて。
なんだか、顔が熱くなったのは気のせいだろうか。いや、きっと気のせいなんかじゃなくて。
同じ制服を纏ったその女の子が、そっと私の手をとって微笑んだから。
私は、やっぱり顔が熱くなったんだと思う。
最初のコメントを投稿しよう!