飛ぶにも吊るにも軽すぎて

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3 「ここから飛ぶのは、どう?」 歩道橋の上で、オレはそいつに話しかけた。 「え?」 そいつは振り向いて、首をかしげた。風に短めの黒髪が揺れる。風の音で聞こえなかったのかも知れない。 「だから、ここから飛ぶのはどうかって」 「あー、それは嫌」 すこしだけ申し訳なさそうな顔をして、そいつは答えた。 「どうして」 「もう、決めてあるんだ」 そいつはそう言って、持っていたビニール袋を示した。ホームセンターの袋だ。中には何が入っているのだろうか。 「ついてきて」 そいつはオレの手を握って、早足で歩き出した。冬の冷たい空気の中、その指の温度はオレの体表に熱を分け与えた。 しかし、その温度は心に沁みない。心が暖かさを受けいるには、もう重く固まりすぎているのだろう。
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