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そして彼女は遠慮がちにこう言った。 「あの…さっき歌を歌ってたわよね?」 「──っ!」 どうやら鼻歌(最後の方は熱唱)をこの人に聞かれていたらしい。 顔に一気に熱が集まっていくのがよくわかった。 こんな美人に聞かれてたなんて恥ずかしい。 「いや、もうお聞きぐるしいのを……」 「ううん。その逆よ、逆」 「は?」 「アナタの声、とっても魅力的だったわ」 「は、はぁ。それはどうも」 「……ちょっと失礼!」 彼女はそう言うと、俺の相棒(メガネ)を取り上げ、鬱陶しい前髪をガッとかき上げた。 普段当たらない風が、俺の額をかすめていった。
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