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―1―
朝から降り始めた雨は、午後になり激しさを増した。
空を覆う黒く分厚い雨雲が、不気味にうごめきながらその形を変えていく。
田川三枝(タガワ ミエ)は机に頬杖をつき、教室の窓を打ち付ける雨が流れ落ちるのを、ぼんやりと眺めていた。
教師が読み上げる、自分にはまるで理解不可能な数式が、三枝には眠りを誘う呪文のように聞こえた。
暗く灰色がかった窓の外の景色を見ながら、三枝はあくびを噛み殺す。
数学の授業は退屈だ。
教師は、三枝のように理解できていない生徒のことなどはお構い無しに、授業をどんどん進めていく。
はじめのうちは何度か質問したりしていたが、声が小さく早口な数学教師の言葉は聞き取り辛く、なにを言っているのかさっぱりわからなかった。理解できないまま、授業は進んでいった。
結局、中学生の頃にはそれほど苦手ではなかった数学は、高校一年生の今では一番の苦手科目となってしまった。
それでも三枝が数学の授業を居眠りもせずにいるのは、隣の席で懸命に黒板に書かれた数式をノートに書き写す、杉原佐和子(スギハラ サワコ)への申し訳なさからだった。
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