暗赤色の月の夜に。

序章

　背中まである長いまっすぐな黒髪を後ろで一つにまとめ、真剣な表情で授業を聞いている佐和子の横顔。

　羨ましくなるほどにきめの細かい白い肌。長いまつ毛と切れ長の目、高くはないがすっきりとした形の良い鼻、固く結んだ薄めの唇。

　際立って美人だとか可愛いだとかというわけではないが、三枝には佐和子がとても魅力的な女性に思えた。

　三枝の祖父が好んで観ている、ずっと昔にやっていた時代劇の再放送。それに出てくる女優のような、古き良き日本の女性。そんな雰囲気を、佐和子は持っていた。

　茶髪にパーマ、登校時にも化粧を欠かさない、今どきの女子高生の代表も務まりそうな自分とは、まるで対象的だ。

　無い物ねだり……とでも言うのだろうか。三枝はなんとなくだが、佐和子の持つ雰囲気を羨ましく思っていた。

　──どうやったら、仲良くなれるんだろう？

　黒板の文字をノートに写し終えた佐和子が目を閉じ、唇を少し尖らせて「ふぅ」と息を吐き出す様子を見つめながら、三枝はそんなことを考えていた。

　それは、佐和子と隣の席になってから毎日のように考えている、三枝の当面の目標のようなものだ。