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数学のノートをコピーさせてもらえるとはいっても、三枝には佐和子との関係が友達と呼べるほどのものに至っているとは思えなかった。
休み時間に他愛もない会話をすることもなければ、一緒に下校して寄り道することもない。実際、三枝が佐和子と交わす言葉といえば挨拶くらいのものだ。
それでも、三枝は佐和子のことが気になって仕方なかった。
五時限目の終わりを知らせるチャイムが鳴り、クラス委員の号令でガタガタと椅子を鳴らしてみんなが席を立つ。
三枝は号令には従わず、座ったまま机の上に伸ばした腕を枕にして、そこに頬を乗せると、隣で教師におじぎする佐和子を見上げた。
席に着こうとした佐和子が視線に気付き、少し驚いたような顔を三枝に向けて、小首を傾げた。
三枝は馬鹿みたいにニカッと笑ってみせる。
佐和子は戸惑った様子を見せたが、はにかみながらも口元には僅かに笑みを浮かべ席に着いた。
「田川、なに一人で笑ってんの? キモいよ?」
頭の上のほうから聞こえた声にハッとして、三枝は体を起こす。
三枝の前の席の西山晴美(ニシヤマ ハルミ)が手鏡を片手に振り返り、目をぱちくりさせていた。まばたきする度にマスカラまみれの重そうなまつ毛がバサバサと揺れた。
「べつになんでもない」
三枝は、すました顔でそう答えると、佐和子の様子を横目で伺いながら大きく伸びをした。
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