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すでに、佐和子の口元からは笑みが消えていて、三枝はがっかりした。
──佐和子の笑った顔なんて、そうそう見られるもんじゃないのに。
三枝はため息をついて、前の席で手鏡に見入る晴美に視線を戻す。
リップグロスを塗りたくった唇を開けたり閉じたりしてパッパッと音を鳴らす、金髪パーマにド派手なメイクの晴美は、このクラスではただ一人の同じ中学出身の友達だ。
「どう?」
三枝を振り返った晴美は、化粧品てんこ盛りの決め顔を作ってみせた。
「ああ。まぁ、いいんじゃね?」
ため息まじりに適当な返事をして頬杖をつくと、三枝は窓の外に目を向けた。
雨も風もさらに強くなってきたようで、校庭の木がザワザワと音を立てて揺れている。
駐輪スペースに並べられた自転車も、そのほとんどが強風によって倒されていた。
「止みそうに……ないか」
そう呟いて、風に吹かれてゴミを撒き散らしながら転がる水色のポリバケツを目で追う。
バケツの転がる先に、傘も持たずに立っている人の姿を見つけた。
三枝たちと同じ制服を着た、髪の長い少女。
彼女は、じっとこちらを見ている。
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