2人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、さっきの扉とは別の扉からだった。
アリシアのいる執務室と隣の部屋を繋ぐ扉。そこから入ってくる人物をアリシアは一人しか知らない。
「んー。入っていいよ」
手紙から目を離さずそう告げると、ガチャという音と共に入ってきたのは、一人の少年。
少年の容姿は、見事なまでにアリシアと真逆だった。アリシアが黒髪に金色の瞳なのに対し、少年は金髪に黒色の瞳をしていた。オプションとして、左目を包帯で隠している。
「アリシアさん、今月の決算と再来月の予算表です」
「ん。机に置いといて」
「わかりました。…ところで貴女は一体何を?」
「レン。貴方、右目もおかしくなっちゃったの?」
毒づくアリシアの言葉をいつものことだとレンは流す。
「そうではなくて、隊長ともあろう方が、仕事もせずに何をやっているんだ、と言いたいんです」
「仕事ならしてたよ。ほら」
そう言ってアリシアが指差した先には、処理済みの書類。しかし、その反対側には倍はありそうな書籍の山。
はぁ、とため息つく、レン。
「貴方って人は…どうして戦闘になるとあんなに出来るのに、デスクワークが出来ないんですか…」
ため息混じりにそう言うレンを 見上げて、アリシアもまた、ため息混じりに言った。
「人間、得意・不得意があって当然でしょ?それは、私も同じ。神サマじゃないんだから…」
ごもっともである。天才少女と呼ばれている彼女にも、出来ないことくらいはある。
正論を返されて、ぐっと言葉に詰まるレン。「それに」と追い討ちを掛けるようにアリシアは続けた。
「副隊長のレンもここで喋ってるんだし、お互い様でしょ?」
痛いところを突かれてしまったレンは、顔をしかめた。
レンは、アリシアの次に天才だと言われている。アリシアのように二つ名はないけれど、『黒の女王の右腕』として、名を馳せている。
「……そうですね。」
ついにレンが折れた。今日はアリシアの勝ちのようだ。
アリシアは、日頃のお返しだと言わんばかりに、勝ち誇った笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!