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「流石ね~、お母さんの介抱してただけあって、必要なの全部出てるわ」
彰檎は、杏子がいきなり着替え出したので、驚き慌てて立った。
「きっ着替え終わったら教えてください!」
部屋を出ようとした彰檎君を見たその時、私は、はっきりと。
「ストップ! そのまま座りなさい」
「でっ・でも…」
「見なくていいから、向こう向いて座ればいいでしょう?」
「は…はい…」
恥ずかしさから萎縮して、その場にうずくまる様に座った彰檎君。 18歳と云う彰檎君だが、私にはどう観ても15・6歳の少年の様に思えて仕方ない。
「彰檎君、お母さんの介抱してて、お母さん何て言ってた?」
「…そ…それは…」
「お母さんは幸せだったと思うぞ~、こんないい息子に大切にされてさ~。 アタシがそう思うんだもの、同じ女なら大抵そう思う」
上着を脱いだ処で、上半身に纏うものが無い私は、チラッと彰檎君を見た。 すると…、座る彼の背中は、私が見入ってしまうぐらいに寂しそうなものだった。
思わず…。
「しょ…ご君?」
私の声が、彰檎君の背中に届いたのか。 静かな口調で、彰檎君は云う。
「お母さん…良く…泣いてました…。 いい子が産まれたのに…何も出来ないって……。 僕はただ……生きてて欲しかっただけでしたけど」
母一人、子一人。 ひっそりと寄り添う様に生きて来た二人だ。 彰檎君の本心が、今出て来たと私は見えた。
「そっか…、彰檎君の大学入学の姿、お母さん見たかったろうにね」
彰檎君は、静かに頷く。
その時、私は彰檎君なら受け入れてもいい気がしてた。 女として、この子を大切にしたいって思ったのは確かだった…。
「よし、着替えた! さっぱりしたわよ~ん」
私が言うと、彰檎君はゆっくり振り向きながら。
「はい」
「洗濯、お願いね~。 下着や服の匂いとか嗅いだらいけないぞ~」
私がからかうと、彰檎君はしどろもどろになって否定する。
それが可愛くて仕方ない私は、ただただ笑い。
「彰檎君、今日のお礼に欲しい物言ってみなさい。 なんでも買ってあげよう。 でも…[お母さん]とかは無しだぞ~」
すると、彰檎は少し考えてから、
「あの…」
と、言い難くそうに。
「ん?」
と、私が半眼のニタリ顔で聞き進めると…。
「本当に、なんでも?」
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