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十二月、例年以上に寒い師走。 クリスマスを十日前に控えた、或る冬晴れの朝。
「樋川さーん」
六本木ヒルズの前で、私は若い女性の声に呼び止められた。
「ん? おっ、みんなで出勤ですか、おはよう」
「おやようございます」
振り返った私の前には、今年の中途採用で入った若手の社員達が居た。 男女あわせて、4人。
しかしながら、コイツ等は纏めて若い。 年齢的には、最大で7‥8歳しか離れないのだが。 離婚を経験した私めには、この若者達の元気な若さは羨ましいやら、少しうざったいやら。
私は、その子達に混じって、六本木を象徴するビルへと向かった。
ビル内32階
=○○ネットクレジット=
私は、この階の会社に勤める。 一応、これでも肩書きがあって、偉そうに見えるけど。 ぶっちゃけて、週3・4日しか出ない相談役。 接客から、後輩指導から、ネットでのアンケートリサーチやら、1クール毎に色々と仕事を任される課長や部長の補佐にまわっている。
私の名前は、樋川 杏子(ひかわ きょうこ)。 29歳 一応、バツイチ。
あの、バツイチって言っても、旦那が死んだとかじゃなくてよ。 別れた旦那ってのが、暴力的で、支配的で、ウザイから離婚したの。
離婚して、まだ半年足らず…。
相手は、IT企業の社長さんだった。 裁判で私が勝って、慰謝料と手切れ金だと馬鹿高い金払わせました~。
なのに、時たま電話を遣しやがる未練がましいアホんだら。 億越えのお金を払ったのは、私の嘘が悪いとか云うの。 アホっ、DVされた慰謝料だっつーの。
今は、もう完全無視で。 ケータイアドレスも変えてやったし、住む所も変えてやったから、全然ウザくない訳。 ま、一人身が寂しいのはあるけど、当分恋愛は要らんと思ってる、はい私です。
金に一生困らない自分ですが、やはり生きがい欲しくて仕事してます。
でも、…生きがいが見つかってしまうなんて、それが男だなんて…。 私は、思いも寄らなかった。
全ての愛欲の日々に至る軌跡は、この日の夕方から始まっていたのだ。
実は、…。
今日は、何でも父が田舎の福岡から来るという話だった。 夜、自由が丘にある私のマンションに、久しぶりに上京して来た父と母がいた。
一人暮らしなのに、5LDKの間取りに、父が呆れていた。
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