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実の処。 父は、死んだ妹さんの若し時に走った愚行に、ほとほと疲れたみたいであった。 私が物心つく昔から、妹さんの事を毛嫌いしていたのは事実。 だからだろう。 普段は面倒見の良い父なのに、今回に限って躊躇していたのだ。
だが、私はそれは違うと思った。
だから…
「解った父さん、その従姉弟の住所教えて。 どんな子かこの目で見て、大丈夫って思ったら面倒見る」
「おいおい、杏子」
両親は、やはり心配で止めに来た。
だけど私は、才能を駄目にするのは嫌な方だ。 そして何より、従姉弟はその今夜知った一人しか居なかったから、見てみたい衝動にかられてしまったのである。
両親を言いくるめ…、じゃなく。 何時もの決めたら直情的な頑固さで押し切った。
ま、呆れ顔の父さん曰わく。
「確かに、お前に腕力で勝てる男では無かな…。 ま、其処まで云うなら、逢ってみるといいがね。 わしゃ、知らん」
お許しが出たっ。
2日後、金曜日。
私は、午前で仕事が終わった。 帰る支度をして居ると。
「樋川さん、今日、この後如何ですか?」
若き部長の宮木君が、脈も無いのに誘ってくれたが。
「パース、男要らな~い。 今日は、用事あるしね~」
私は、いつもの調子でこう返した。
ロッカーに回って、いよいよ帰る私に、入ったばかりの若い女子達がやってくる。
「樋川センパ~イ、断るだなんてあんまりですよ~」
「そーですよぉ~、一番のイケメンの宮木さんですよ~」
部長の宮木は、若く顔がいいし、しかも仕事出来るから、若い女の子達には憧れの存在だ。 しかし、前の旦那をそれで失敗している。 もう2度は要らないと思っていた。
「じゃ、みんなにあげるわよ~。 彼が暇なんだから、誰か誘っちゃえば?」
すると女子社員達は、こぞって早速宮木君の所に向かって行った。
そんな女性社員達に、私は思う。
(アホぅ。 私は今日、従姉弟に会う日である。 この大事な瞬間を、あんな作られたイケメンに邪魔されて溜まるか…)
と。
さっさと出て行く杏子が消えて。
その後、若い男女の社員達がコーヒーブレイクしながら、言っている。
「わっかんね~よな~。 樋川さんって、すげ~美人じゃんか、マジ男いない訳?」
今年入った新人の男の子が云う。
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