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上半身を起こして何故か痛む額を押さえていると、正面にある扉が開いて少年が入って来た。
その顔を見た瞬間、あっと小さく声を漏らす。
「…大丈夫すか?」
ぶっきらぼうに問いかけるこの少年こそが今回の依頼人である池浦翔太(イケウラ ショウタ)君だ。
確か高校生。
しかし、「大丈夫か」とは何の事だろうか。
そもそも、何故僕は依頼人の家で寝てたんだ…?
その疑問に答えるように、翔太君が口を開く。
「薬師寺(ヤクシジ)さんがウチの呼び鈴を鳴らそうとした瞬間に、ちょうど俺が勢い良くドアを開けたんす。
そしたら額にたんこぶ作って気絶しちゃって…。すいません。」
「そうだったんですか…。
介抱して頂いて、有り難うございます。」
営業用スマイルを浮かべてうやうやしく頭を下げる。
…この仕事をしてると笑顔で客に対応する事はなかなか無いから、なんか新鮮だな。
――…あれ、僕まだ名乗って無い筈だよな?
「…何故私の名前を?」
「あぁ…、これっす。」
そう言って翔太君が取り出したのは、僕の名刺。
ポケットに入ってた筈だから…身元を調べる為に探った、のか。
「一応言っときますけど、何も盗ってないんで。
確認していいっすよ。」
「いえ、大丈夫です。」
盗られるような高価なものは入っていない。
軽く微笑むと、彼は何故か目を逸らして何か呟いた。
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