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涙目で振り返ると、案の定ばあちゃんだった。
と言うか、この家は俺とばあちゃんの2人暮らしだ。
…3人は、もうこの世に居ない。
「翔太、さっきの人は起きた…あら、起きてる」
せわしなく視線を移動させ、薬師寺さんが起きている事を確認するとちょっと照れたように笑うばあちゃん。
かなり若々しい。
「おばあ様のコトネさんですか?お若いですね。」
薬師寺さんが姿勢を正して一礼する。
俺と同じ事を考えていて、少し頬が緩む。
「うふふ…ありがとう。ところで、あなたは?」
「あ…申し遅れました、私は葬儀屋の薬師寺と言います。」
ばあちゃんが薬師寺さんの正面に座り、俺も2人に倣ってばあちゃんの隣に正座をする。
そして、薬師寺さんのポケットから拝借した名刺をばあちゃんに渡した。
ばあちゃんは名刺を確認すると、「よろしくね、薬師寺さん」と笑顔で右手を差し出す。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
同じように右手を差し出し、目尻だけを下げる薬師寺さん。
亡くなった直後だから(…と言うか、仕事を通してなのかもしれないけど)感情を表に出しちゃいけないんだろうな。
そんな控えめな感じが伝わってくる。
握手を終え、薬師寺さんが黒い角張った大きなカバンから書類を取り出した。
「では、葬儀の説明に移らせてもらいます」
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