2人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「ごめんなさい!!私、あまり外に出られなくて、みんなのこと知らなくて…」
気づけば私は、彼に頭を下げていた。
後ろで結んだ髪の束が、耳の横で垂れる。
コルセットのため、お腹が痛い。あまり頭も下げられなかった。
「や、やめてください!頭をお上げ下さい!僕は別に……そんなんじゃ」
「ごめんなさい…」
しばらく彼は何も言わず、立ち尽くしていた。
彼の足が見える。ボロボロな裾が破けている黒いズボン。編み目が今にもちぎれそうな下駄。
そんな光景を見ていると、涙がこぼれた。
その雫は彼の素足に当たって弾けた。
彼は言った。
「何故…泣いておられるのですか?」
「よく、私が涙を流したと分かりましたね?不思議です。」
私は未だに彼の足を見ていた。
「それは、冷たい雨の雫が足に弾ける中、一粒だけ、暖かい雫が弾けたのです‥それはあなたの涙じゃありませんか?」
私は顔を上げた。彼は景色を眺めていた。
初めて横顔を見たが、泥まみれだった。雨がその頬を流れても尚、彼の頬には泥がこびりついている。
そんな頬を、私はいつも持参しているハンカチで優しく撫でた。
すると彼は、驚いて私の顔をまじまじと見つめてしまった。
今度は顔をそらさず、真面目から私の顔を見つめたのだ。
「姫…よろしいのですか?こんな農民の汚れた肌にそんなものを当てて…」
「あなたの肌は汚れてなんかいない、肌も体も心も綺麗な男の人…」
「………あ、あなた様も……綺麗なお方だ」
何故か私が俯いてしまった。
今までは彼を直視出来ていたのに、不思議だ。
最初のコメントを投稿しよう!