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しばらくすると、鍋に張った水がボコボコと唸り初め、いくつもの泡が噴いては消え噴いては消えを繰り返していた。
頃合いだと思い、鍋を掴むと、その瞬間に強烈な痛みに襲われた。
声にならない悲鳴を挙げ、体ごとのけぞった。
「姫様!大丈夫ですか!?だから僕がやるとおっしゃいましたに‥」
「う、うるさい!姫だからって差別しないで!私だってお湯ぐらい沸かせます!!」
私は腰を曲げ、手を押さえた。
今日はドレスやらコルセットやらでは無く、昔買った商民達が普段着ている動きやすい服装だ。
そして初めて、腰を思いっきり曲げられた気がした。
私は知ったのだ。商民や農民の服装は動きやすい‥
私はそんなことすら知らなかった。
「姫様、これを」
彼は私に水に濡れた布切れを差し出した。
それを両手に巻くと、ひんやりとして気持ちよかった。
「姫様、鍋を掴むときは、この鍋つかみというものを使うのですよ」
そう言った彼は、少し大きめの手袋を装着した。
指の形があるのは親指だけで、その他は一つにまとまった異様なものだった。
「し、知ってるよそんなこと!姫よ私!」
「なら姫様、これは知ってますか?」
彼が次に持ってきたのは、何かの武器だろうか、先端部分で首を
「これは鍬です。農具ですよ、これで畑を耕すのですよ?」
「知ってるよ!ならあなたは知ってるかしら、蟹という生き物を、殻の中に身が詰まっていてそれはそれは美味しいですのよ?」
「し、知ってますよ!ならあなた様は知っておられるだろうか、もやしと言って、最近隣国から伝わった食材で、それはそれはか細く、美味しいのですよ!」
「知ってるわよ!毎日食べてるし、間食とかに食べてるよ?」
その時には、私は手の痛みを忘れ、鍋に張った水は溢れ出て音を立てていた。
それに気づいた2人は慌てて火を消したのだった。
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