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「もう嫌なの」
新緑の爽やかな季節に似合う土曜日のオープンカフェで、向かいに座った女の横顔を、立ち上る煙草の煙越しに見ている。
その横顔は痛く疲れていて、まるで知らない人に思えた。
言っても目の前にいるのは、同性の恋人なんだけど。
スレンダーなボディーに、スラリと伸びた手足。
ちょっとしたモデルみたいな容姿っていうだけで、見てて楽しいじゃない。
単純に美しいな、と目を引くから。
酷く疲れた顔をしていなければ、別に笑っていなくてもいい。
そうやって今みたいに眉間に皺を寄せるのは頂けないけども。
「聞いてるの?……結局あなたの穏やかさは優しさじゃなくて、無関心なだけなのよ」
またそれか。
言われ馴れた台詞は、この煙草の煙と同じ。
胸の中を素通りし、毎度のように意識をほんの少しかすめて、通りすぎてゆくだけ。
息を吐くのとほぼ同時に、自分の中には何も残っていない。
敢えて言えば、無関心に加えて無気力というのもあれば、より一層実像に近づくと思うんだがね。
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