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「いいのよ、代わりにあたし飲むから。さーて何飲もうかしら」
「どうぞ。ついでだからダーティ・マザーにすれば?」
カルーアを、ウォッカでなくブランデーで割ると【ダーティ・マザー】になる。
『たかろうとするママ』に掛けて『ダーティマザー』と言ってみた。
「あらそれ嫌味?」
勘のいい朝子は、間髪入れずにそう返してくる。
「もちろん誉めてるよ」
そう言えば、笑いながら軽く肩を叩かれた。
朝子とは、朝子が独立してこの店を出した頃からの付き合いだから、知り合って結構長い。
それだけ気心が知れているから、ここは居心地がいい。
「あたしカルーアみたいな甘いの苦手だから、シャンパンがいいわね」
「氷川君、グレードダーティマザー、一杯ね」
「あははは」
「フラれて傷心なんだから優しくしなさいよ」
「傷心なんてどの口が言ってるのかしらね」
「この自慢の唇ですよ。キスはいつでも受付中」
「本当に口の減らない人」
「それだけが取り柄でね」
笑いながら煙草をくわえると、スッと火をつけられた。
その仕草ひとつにも、洗練されたものを感じる。
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