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「…まったく面白い奴だな」
『ありがとうございます!!褒め言葉です!!』
口を押さえる動作も様になっていらっしゃる。イケメンは何をしてもイケメン。
おもしれー男認定されたのかな?光栄だ!と思ったので胸を張って喜びのアピールをした。そしたらまた笑われた。何をしても笑ってくれる、芸人の血が疼くぜ…
「芸人なのか…?」
『声に出ていたとは、なんたる不覚』
「お前ほんとに先程までの被害者か…」
芸人ではないが、芸人並みの面白さを目指してたりしてなくもなくはない。
九条先輩はツッコミも達者なのだな。まぁそこは変わりないようで良かった。元気そうでよかった、本当に。
──月華の総長ツクヨ、
彼との懐かしいやり取りが穏やかな気持ちにさせてくれる。この目を忘れるわけがない。俺の知ってるツクヨは銀髪にアメジストの目と隊員揃いの黒いマスクで、静謐で綺麗な戦い方をする人だった。黒マスク集団はシュールな絵図で、最初笑ったっけな。
いつも通り、いつも通りと思って
楽しいことを考えて
気を紛らわして、ほんとは疲れたんだ。
本音言うと平気じゃないなってのもあった。
襲われたことよりも、ずっと苦しい。
彼らに会うことが嫌なわけではない、嫌いになったわけではない。また笑い合ったり暴れ回ったりしたいって今も思う。
それと同時に焦燥感、罪悪感が伸し掛かってくる。だって、ほんとは
会ってはいけない
アイツが、いつ何処で、見ているか分からない
自分だけならいい、もし
大事な人を巻き込んでしまうなら
俺は、1人で戦うって決めたのにって
責めていい、怒っていい、嫌いになってくれて構わないから。優しくしなくていい。
だって、
縋りたく、なっちゃうから。
話せたら、楽だろう。どんなに楽だろうか。でも、知ってしまえば、きっと
手を差し伸べてくれるんだ。一緒に戦う、一緒に居る、支えてくれる。分かるんだ。俺もそうだから。
だから、ダメだ。言えないよ。言うわけない。
見つかっちゃいけない。
俺が、ユウヒは、アイツから逃げるために、皆を守るために
ここに来たのに。皆居るじゃん────ってなるけど
流石のアイツもこんな人里離れたとこまでは来ないと思うんだけど
都心にしがみ付いてるし、ユウヒとして活動しなければ嗅ぎつかれることもないだろう。と思う
…フラグじゃん?
いやでも流石にもう俺で遊ぶの飽きたんじゃないかって思う、暇かよって
悶々と思考に浸っていたら。肩を掴まれた。俯いていた顔を上げる。いつの間に、こんな近くまで来ていたのか。それほど、考え込んでしまったのか。
「顔色が悪い、やはり…」
『かんがえ、ごと、してただけですよ』
大丈夫。──大丈夫、じゃない。
憂慮に堪えない顔をするもんだから、泣きそうになるじゃん。強面だから、勘違いされやすいけど誰よりも人情深く、誰よりも気付く人だ。
「せめて保健室に行こう、話しは後日聞くから、今日はもう」
『今は動いてる方が、いいんです。それに新歓楽しみにしてたんですよ?悔しいじゃないですか、せっかく』
──何も考えないでできてたのに。
「…わかった。ただ、約束しろ、無理はしないと」
「浦瀬」
察しのいい人。踏み込みすぎないで、聞かないところ。相変わらず落ち着く。会えたのは嬉しいのに複雑な気持ちだ。この人のせいでも、皆のせいでもないのに。己が弱いからだ、心が弱いせい。
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