一章 消失

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 エリサが、主治医に退出を促した。主治医が、溜息を吐き捨てて外に出る。  ソラは、母親のエリサを見返した。エリサが、哀しそうに顔を歪ませて、ソラの右隣に腰を下ろす。レモンの匂いは香水のものであった。エリサの手が頬に触れる。しかし、ソラにはその温もりさえ伝わらない。エリサの瞳が潤む。 「なんだよ、母さん」  ソラが問えば、エリサが空中に返事を浮かべる。 「ヒカリのことは諦めて」  信じられない文にソラは、エリサの手を払う。先程よりは、動けるようになったらしい。それでも今の奇想天外に勝るものはない。 「どういうことだよ」  ソラは、エリサに問い掛ける。エリサは、静かに俯いた。  空中の文字が変化する。 「ヒカリは、あのひとを探しに行ったの」 「あの人?」 「スワンさん」  空中の文字は、エリサの意志で組み替えられる。彼女は、そうやって生きてきた。喋ることができない孤高の種師。大陸では無音種師(サイレント)と呼ばれる地位にある。それが、ソラの母親であった。 「スワンを?」  ソラは、失笑した。母親だけは、どうやらこの異常自体を信じているようであった。  スワン・リールは二ヶ月前に失踪している。
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