一章 消失

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 ソラが飛び起きた時、部屋の大鏡に自分の姿はなかった。あったのは兄、ヒカリの容姿だ。  信じられずに、ベッドを下りようとた身体に激痛が走る。身体全体が痺れ、ベッドから転がり落ちた。  神経が麻痺しているためか、床にたたき付けられても痛みを感じない。それより何より、大鏡に映る自分であろう姿に絶句した。  理解ができずに、這うように鏡の前へと移動する。 「大変だ! 弟君が島を抜け出した!」  何時、屋敷へ来たのか役人の声が児玉する。ソラは、声を上げようとしたが、身体の自由は利かない。頭が、痛む。家臣の声が、幾重にも重なり、消えていく。  ソラは、振り切るように鏡を割り付けた。その音に反応した主治医が、入ってくる。 「まだ、寝ているべきだ。無理をしないほうが良い」  主治医が、ソラをベッドに戻そうとした。何時もならば振り払える手も、今のソラにはどうすることもできない。何もできないまま、襲う痛みと戦った。  主治医に引きずられてベッドに座る。身体全体に冷や汗が流れていた。主治医は、手際よく、用意した布を水で浸し、差し出して来る。 「今の君を困らせたくはない。弟君のことは、その、非常に残念だと思う」
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