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「なに――」
「ああ、まだ、記憶が混乱していたのか。順を追って話すべきだった。済まない」
主治医が、肩膝を付いてソラに目線を合わせる。ソラには何が何やらさっぱりであった。
「俺は、此処に居るだろ?」
だから、ソラは吐き出すように告げる。舌が縺れたが、なんとか言葉は伝わったようだ。主治医が、驚くほど目を見開く。
「頭の打ち所が悪かったようだね。貴方を運んだ住民の話によれば、弟君に一方的に攻撃されていたそうだよ。弟君は、貴方が動かなくなってから、船で大陸に逃亡したそうだ。その時、水夫が何人か殺されたと島では専らの噂だ」
「は――? ふざけるな。そいつは俺じゃない!」
ソラは、主治医の言葉を信じられずに言葉を荒げる。渡された布をいつの間にか力一杯、握っていた。
「だから、弟君がやったと言っただろう。とにかく、今、貴方になにかあったとしたら全土が狂ってしまう。先ずは、治療を優先させるべきだ」
主治医が、諭すよう言葉を紡ぐ。それが、ソラには気に食わなくて、主治医を殴ろうとしたが、身体は動かない。まるで、麻痺剤を投与されたような感覚だった。
「傷は治ってる。あんたの治療は要らない」
苦し紛れに、主治医を追い払おうとする。
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