一章 消失

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「いや、冗談を言っているわけじゃない。治種の効き具合が遅いんだ。まだ、動くと節々が痛むだろ?」 「うるさい。良いから下がれ!」  ソラは、言い放つ。言い放ってから、内臓が軋むのを感じた。痛みを堪えていると主治医が錠剤を差し出して来る。白い錠剤は痛み止めであった。 「無理をせずに休むと良い。弟君は、見張りが捕まえてくれる」  主治医は、喉奥で笑う。 「だから、あいつは俺じゃない」  ソラは、昔から話すのが下手だった。上手く言葉を伝えられずに、苛立ちばかりが募る。 「そうさ。貴方は、大陸全土の神様だ。弟君とは違う高貴な立場だ。気を強く持つんだ。母上様を哀しませてはいけない」  主治医が立ち上がると、母親のエリサが、心配して部屋に入ってきた。  エリサは、ヒカリとソラを十四歳で生んだ。周りを押し切ってのことだった。それだけに息子への愛情は強い。そのエリサがおろおろと近づいて来る。  青瞳と真っ黒な髪に青のドレス。まだ、三十路にならないその女は、左手を軽く唇に当てている。エリサが驚いたり、怖がった時の仕草だった。 「あ、う」  エリサは、言葉を喋れない。文字を空中に浮かべて他人と会話する。
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