夕方

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僕が不思議な出来事に遭ってから、もう一年くらい経つだろうか。 その日は、少し寂しい一日だった。 二十歳の僕が、実家に帰省してしばらくたった夏。 僕が可愛がっていた犬が死んだ。僕は悲しいから泣いた。 夕方、僕は外をふらふらと歩いていた。 空は血が溢れ出たように真っ赤だった。 ふと、頬にまとわりついている空気が冷たく感じて、僕は前を見た。 女の子が立っていた。 肩より少し長い髪を、片手でもてあそびながら、僕より少し前を歩いて… …いや、靴があるはずの部分は、透明だった。 「!!」 その子が振り向いた。 僕はホラー映画のような展開を頭に描いたが、現実はそれよりもっと爽やかだった。 女の子は、おどろおどろしい振り向き方ではなく、体ごとクルッと振り返った。 「………」 「………」 お互い沈黙が続いた。 僕は注意深く彼女を観察した。 僕より随分年下、あどけなさの目立つ顔立ちからして、中学三年生前後だろうか。 紺のワンピースを着ていて、実年齢よりも大人に見える。 「……なにが…」? 僕がずっと黙っていたからだろうか、少女が口を開いた。 「何が悲しいの?」 小首をかしげて、無邪気に聞いてくる。 僕は何が悲しいんだろう?犬が死んだ事?それ以外の心当たりがない。僕は答えた。 「犬が死んだんだ。だから…」 「ちがう。」 少女が口を挟んだ。 「何が悲しいの?」 また同じ質問。この子は何が言いたいんだ? 「あなたはいつもそう。本当はもっと悲しいのに、もっと寂しいのに」 手が震える。僕はなぜ震えているんだろう。
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