夕方

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「もっと泣きたいのに、涙は少しだけ。」 そんな事はない。僕は悲しかった。だから泣いたじゃないか。そう思ってるのに、唇が震えて声が出ない。 「………っ!?」 彼女の手が僕の頬に触れた。冷たい。 「あなたは、流せなかった涙を全部ためたまま、大人になった。」 「…なんで…そんな事が、君に、分かるんだ。」 少女はゆっくり微笑んだ。 「あたしには分かるんだよ。あなたを小さい頃からよーく見てるから。」 僕を小さい頃から知っている?僕はこの子の事なんて、知らないはずなのに。 「だからあなたが抱えてる涙の数も知ってる。これ以上我慢すると、あなたの涙は、きっと消えてしまう。」 夕焼けに照らされて、僕も、その子も真っ赤になった。 深紅の世界で、彼女は静かに話す。 彼女の手が、頬から僕の心臓の辺りまで滑り落ちた。 「だから、あなたは泣かなきゃいけない。」 その手をゆっくりと、心臓に押し付ける。 ドクンと、心臓が大きく脈を打った。 喉をギュッと絞られる感覚が僕を襲い、その痛みに僕は目を瞑り、声をあげた。頬をぬるい涙が滑り落ちる。 僕はそのまま崩れ落ちて、声をあげて泣いた。
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