0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「もっと泣きたいのに、涙は少しだけ。」
そんな事はない。僕は悲しかった。だから泣いたじゃないか。そう思ってるのに、唇が震えて声が出ない。
「………っ!?」
彼女の手が僕の頬に触れた。冷たい。
「あなたは、流せなかった涙を全部ためたまま、大人になった。」
「…なんで…そんな事が、君に、分かるんだ。」
少女はゆっくり微笑んだ。
「あたしには分かるんだよ。あなたを小さい頃からよーく見てるから。」
僕を小さい頃から知っている?僕はこの子の事なんて、知らないはずなのに。
「だからあなたが抱えてる涙の数も知ってる。これ以上我慢すると、あなたの涙は、きっと消えてしまう。」
夕焼けに照らされて、僕も、その子も真っ赤になった。
深紅の世界で、彼女は静かに話す。
彼女の手が、頬から僕の心臓の辺りまで滑り落ちた。
「だから、あなたは泣かなきゃいけない。」
その手をゆっくりと、心臓に押し付ける。
ドクンと、心臓が大きく脈を打った。
喉をギュッと絞られる感覚が僕を襲い、その痛みに僕は目を瞑り、声をあげた。頬をぬるい涙が滑り落ちる。
僕はそのまま崩れ落ちて、声をあげて泣いた。
最初のコメントを投稿しよう!