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頭がくらくらする。声が枯れる。それでも僕は、泣くのをやめられなかった。
僕はこんなに涙をためこんでいたのか。
むせび泣く僕のそばに、少女は座り、僕の頭を自分の胸に引き寄せた。
「もう大丈夫だね。これからは、悲しかったら声を出して泣かなくちゃ駄目だよ。」
その子は僕の頭に自分の頭をこつんとぶつけて、言った。
「じゃあ、あたし行くね。」
待って、と言いたかったのに、体が動かない。目も開けられない。
そのまま僕は真っ暗で温かい場所にじっとしていた。何かに包まれて、揺さぶられて。
その時、僕の脳内に、沢山の記憶の断片が滑り込んできた。
僕は小さい頃から、感情が薄い子供だった。
友達は、多い方じゃ無かった。
僕には好きな遊び場があった。
家の裏にある古い井戸。
そこでいつもあの子と、
隣の家の
僕より二つ年上の
紺のワンピースが好きで
片手で髪をいじるのが癖だった
あの子と…………
………………
体が重い。
見なれた景色の中に、僕は倒れていた。
古い、暗い井戸。
全ての思い出が溢れて、頭が痛い。
あの子は、僕が制服に袖を通してまだ間もない頃、死んだ。
さっきまで目の前にいたのに、もう戻らない。そんな事を感じるには、僕は幼すぎた。
あの子のそばで流した涙は、きっと、そのほとんどが、あの子の為の涙だった。
そんな事を考えて、苦笑していたら、思い出したように涙が零れた。井戸の横に仰向けになって寝転ぶ。夜がそこまで迫っていた。
僕は今度はちゃんと、あの子に言われた通り、声を出して泣いた。
沢山の悲しみと、寂しさと、感謝を込めて。
湿った風が、僕と夜を包んだ。
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