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「アンタたちから声がかかるときは、いつも急だ。もう慣れましたよ」
シリウスはサァラブの方を振り返ることなく、ただじっとオアシスの水面を見つめている。その頬には、ドラゴンの子孫の証であるふた筋の傷がくっきりと刻まれていた。
「さーて、シリウスのオアシス鑑定も無事終わったことだし、おーさまとオレは宮殿に戻りますかね。そろそろ帰らないと、またシャオが倒れてるかもしれないし」
サァラブはそう言うと、木の上で大きく伸びをした。
「サァラブ、違うだろ。シャオは俺だ。『おーさま』はここにはいない」
楽しそうにそう話すクロノスの脇で、シリウスが怪訝(けげん)な顔をする。
「何を言ってるんです? アンタは夏の国の王様で、シャオは執事のはずだろ?」
「はは、まあまあ、あまり気にするな。これはあれだ、一種の遊びみたいなもんだ」
クロノスはそう言って木の上で顔を引きつらせているサァラブをちらっと見遣(みや)ると、可笑(おか)しそうにくすくすと笑った。
「おーさま、マジで勘弁してくれよ。頼むからそのネタはもうやめてくれーっ!」
サァラブの悲痛な叫びが、静かなオアシスの中いっぱいに響いた。
「何なんだ二人とも? 全然意味が分からない……」
笑い転げるクロノスと何故か必死なサァラブを交互に見ながら、やはり状況が全く理解できないシリウスであった。
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「あああぁ……暑い……あづいよぉ……」
宮殿近くの道ばたで、碧(あお)い髪の少年がふらふらと地に膝をついた。
「ああ……今日こそもうダメだ。王様を追いかけた挙げ句にまた迷子になって、野たれ死んでしまうなんて!」
シャオはふうふうと肩で息をしながらじっと地面を見つめる。地についた両手をにぎりしめていると、髪を伝ってぽたぽたと汗が拳(こぶし)に滴(したた)り落ちた。
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