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大きな屋敷の縁側を、二人の男がゆっくりと歩いていた。一人は黒髪であり、もう一人は明け方の太陽に染められたような、淡い赤の髪である。白木がふんだんに使われた縁側は人が二、三人は優(ゆう)に歩ける広さがあるのだが、赤い髪の男は黒髪の男から一間(いっけん)ほど後ろを静かについていく。
「若、本当によろしいのですか?」
麻宮は晄の背中に声をかけた。少し冷たい風が外から屋敷の中へと吹き渡り、鮮やかに色づいた庭の紅葉(もみじ)を白木の床板(ゆかいた)に一枚、二枚と散らしていく。
「もちろんだ。俺は本気だぞ」
晄は後ろを振り返ることなく答える。晄の返事からひと呼吸おいて、麻宮が再び口を開いた。
「しかしあの笹羅と名乗る少年、よくよく聞いてみれば盗賊だったと言うではないですか。副官として、そのような危険な人物を若のお側(そば)に近付けるわけには参りません」
きっぱりとした麻宮の言葉に、晄はぴたりと歩みを止めた。麻宮も続いて足を止める。
「あいつなら、絶対に大丈夫だ。目を見ればわかる」
晄は床に落ちた紅葉をそっと拾って太陽にかざすと、自慢げに麻宮を振り返った。その妙に自信たっぷりな表情に、麻宮は深いため息をついた。
「なんだよ、そのため息は。俺の言葉が信じられないって言うのか?」
晄は少しむっとした顔で麻宮を見つめる。麻宮は肩をすくめてその視線を受け流した。そしてしばらく思案した後、急に表情を柔らかに崩して言った。
「わかりました。若がそこまで言うのであれば仕方ありません。笹羅が若にお仕えすることを認めましょう」
「本当か! 麻宮なら、わかってくれると思ったよ!」
晄は嬉しそうにそう叫ぶと麻宮の方に向き直り、紅葉を持ったまま麻宮の手を両手で握った。
「ただし」
麻宮はにっこりとした笑顔のままだが、先ほどまでとは全く異なる厳しい声色(こわいろ)でそう言ったので、晄はびくりと動きを止めて口をつぐんだ。
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