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一方その頃、秋の国を治める王の屋敷の門のすぐ脇に、大剣を右肩に立てかけた少年が胡座(あぐら)を書いて座っていた。その逞(たくま)しい体を大きく屈(かが)めこんで、少年は大きなくしゃみを一つした。
「二晩も野ざらしでの座り込みで、さすがの俺も風邪をひいちまったかな」
笹羅はそういって鼻をすすった。秋の王に会いたいと何とか屋敷まで辿り着いたものの、門番にすげなく追い返されたのが三日前。翌日にもう一度門番と交渉してみたが、全く歯が立たないので座り込みを開始した。そこへ偶然秋の王と副官が通りかかったため、ここぞとばかりに門番の制止を振り切って直談判した。副官の男は明らかに疑わしそうな目で睨みつけてきたが、王の方は笹羅の情熱に非常に感動した様子で何とかして屋敷の中で働かせてやるとその場で約束してくれた。そこで笹羅は、副官の許しが出るまで門前での座り込みを続行したのである。
「そこの少年」
突如、笹羅の背後から声がした。剣士でもある笹羅は人の気配に敏感で、背後を取られることはほとんどない。笹羅は瞬時に、声の主が相当の手練(てだれ)であることを理解した。
「副官の麻宮様からお前を屋敷に入れて良いとのお許しが出た。私について来い」
笹羅が警戒しながら後ろを振り返ると、背の高い銀髪の男が無表情でじっと笹羅を見下ろしていた。
「あんた、その話は本当だろうな? 嘘だったら、ただじゃおかねぇぞ」
笹羅はそう言いながら、右手で大剣の柄(つか)を握った。
「来る気がないなら、それまでだ。麻宮様には、笹羅という少年はもう既に門前からいなくなっていたとお伝えする」
身構える笹羅に眉一つ動かさず、男は淡々としている。
「……わかった」
笹羅は男の見下ろす視線を負けじと睨み返しながら、ゆっくりと立ち上がった。
「麻宮様のご命令で、しばらくは私がお前の面倒を見ることになった。最初のうちは、屋敷の中を許可なく勝手に動き回らないように」
「のっけから説教がましいじゃねぇか。まあ、いずれ秋の王に仕えられるならそれでいい。あんた、名前は?」
笹羅の挑戦的な態度にも男は全く動じることなく、名を名乗った。鶉火……笹羅はその名を呟きながら、男と共に屋敷の門をくぐった。
(秋の国 了)
続きは皆さまのご想像にお任せします♪
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