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「王様ー! 王様ぁ―!!」
宮殿の中にある一室に、少年の声が響く。
「王様ー! どこにいるんですかー?!」
白くてすらりとした体。南国の珊瑚礁のような碧(みどり)の髪の下からは、明るい蒼(あお)色の瞳を持つ左目が困ったようにまばたきをした。
「お仕事はまだたくさん残ってるっていうのに、王様ってばすぐに姿を消しちゃうんだから!」
少年は部屋の中を何かを探すようにあちこちと見回していたが、やがてぷりぷりと文句を言いながら部屋を出て行った。ぱたぱたという足音とともに、少年の呼び声がだんだんと遠ざかっていく。
碧髪の少年が立ち去ってからしばらく経った頃、誰もいないはずの部屋の中にごそごそと物音が立った。続いて、部屋の奥に備えられた木製の立派な書斎机の下から、金色の髪がひょっこりと姿を現した。
「ふー、危うく見つかるとこだった」
金髪の青年はそう言うと立ち上がり、三つ編みにした長い髪をさっと右肩にかけた。
「おーさま、まーたシャオをいじめてんの?」
不意に背後からかけられた言葉に、青年はぎょっとして後ろを振り返った。青年が身を隠していた書斎机の後ろは大きなガラス戸になっており、その先には広い石造りのバルコニーがある。そこに、緑色のバンダナを頭に巻いた男が頭の後ろに両腕を組み、にんまりと笑いながら立っていた。
「なんだ、サァラブじゃないか。驚かすなよ」
相手が誰だかわかると夏の王クロノスは緊張した面持(おもも)ちを緩めて笑みを浮かべ、サァラブに向かって腕組みをしてみせた。
「しばらく姿を見かけなかったが、いつ戻ったんだ?」
クロノスの問いかけにサァラブは少し考えたように首を傾(かし)げたが、すぐにまたにんまりと笑って答える。
「んー、そだね。シャオがいつもみたく『王様あぁー!』って叫びながら、部屋の中に入ってきたときかな。ま、その時おれっちはバルコニーの上に隠れてたんだけどね」
そう言ってサァラブは、思い出すようにくすくすと笑いをこぼした。
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