夏の国

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「相変わらず、神出鬼没なヤツだな。お前が現れるのはいつも木の上か屋根の上だ。一応れっきとした国の諜報部員なんだから、一度くらいまともに登場したらどうなんだ」  クロノスは冗談まじりにサァラブを睨(にら)みつける。 「へへっ。おれっち、こう見えて意外とシャイなんすよ♪」  サァラブも慣れた様子で言葉を返した。二人でそうしたやりとりをしていた時、突如、部屋の扉が大きな音を立てて開け放たれた。 「王様! やっと見つけた!! やっぱりここに隠れていたんですね!」  シャオは短く息を切らせながら、つかつかとクロノスに歩み寄った。王様探しに夢中になっていたので、クロノスの前に立った所でようやくサァラブの存在に気がついた。サァラブは右手をちょいちょいと振って、シャオに軽く挨拶する。 「サァラブ……お前が来たということは、また何か新しい情報を仕入れてきたんだな? でも王様、今日の仕事が終わるまではお城にいてもらいますよ。外出しちゃダメですからね!」  シャオの剣幕に、クロノスも降参とばかりに両手を上げた。そして両手を上げつつ、王を外に連れ出さないようにとサァラブに念を押しているシャオから少しずつ、少しずつ後ずさりをしていった。 「さぁ、王様! お仕事に戻って……って、あれ? 王様は?!」  シャオがサァラブに指示をし終えて後ろを振り向くと、ついさっきまでそこにいたはずの王の姿がない。シャオは慌ててバルコニーに飛び出した。バルコニーの先に駆け寄って下を覗くと、いつの間にやら部屋を抜け出したクロノスが街に向かって走っていく姿が見える。 「ちょっ……王様ー! 戻って下さいぃーー!」  必死に叫ぶシャオに向かい、クロノスは無邪気な笑顔で手を振った。シャオはもう泣きそうになりながら、王の姿を見送ることしかできなかった。気がつけば、サァラブの姿も消えていた。クロノスの後を追ったのだろう。 「はぁ……これじゃあ俺、執事失格だよ……」  シャオはがっくりとうなだれて、白く滑(なめ)らかな石の手すりに突っ伏した。
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