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【1】
月下、街の中を緑の怪物が駆け抜ける。
筋肉質で大きい体躯ながら、四本足による疾走は馬をも越えた。
口からよだれを垂れ流し、血走った赤い瞳で獲物を探し続けている。
ラージゴブリン。
二足歩行のゴブリンと違い、粗末な石器を装備せず、群を成さずに行動する。
生息地は森なのだが、近年の森林伐採や開発によって、こうして街に食料を求めてやってくるのだ。
街を一望できる塔の上、二つの影があった。
そのうち双眼鏡を覗き込む少女が言う。
「距離六五〇メートル。南西からの風――二弱。魔力密度も下方気味」
すると寝転がって、筒状の武器を構える少女が首肯した。
「ちょうどいいよ。変に密度高いと調整が面倒だし」
「でもラージゴブリンの大量発生っておかしいような気がするなぁ……」
「そうかな。たった五匹でしょ?」
「単独行動の習性だし、申し合わせたみたいに同じ時間、しかも同じ場所に現れるなんて変だよ」
「……動物学わかんない」
ラージゴブリンが塔に向かって猛進してくる。有効射程に入りつつあった。
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