第二章 不安

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「♪~」  鼻歌交じりに、一人の青年が”戦場”に立つ。  緊張感のない雰囲気ではあるが、その手の動きは実に精錬されていて、周囲から注がれるプロの視線から見ても感嘆せざるを得ない程の手際の良さを見せていた。  異国風の顔立ちながら、その柔和な表情が相手に警戒心を抱かせない。  私服の上に狼の顔のプリントされた赤いエプロンという、平凡な出で立ちであるものの、その存在感は凄まじいものがある。  清潔感を保たれ、最新の設備の揃えられたキッチンに立つ青年、大神ジーク(おおがみ ジーク)は、自らの腕を存分に振るうことの出来る環境を前にして、歓喜の思いを押し留めることが出来なくなっていた。 「(ち、チーフ。俺たちの仕事が…)」 「(馬鹿野郎。あんな完璧な仕事を見せつけられたら、こっちは何も言えないじゃねぇか…)」  驚嘆しながらも、どこか諦めたような気配を漂わせるのは、彼らのプロとしての矜持が目前の状況を受け入れることを拒絶しているのだろう。
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