第弐話【邂逅】

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 翌日。高杉の発言通りに小春日和となった。突然の出立に藤は驚いていたが、直ぐに了承する。  着物に慣れていない桜花は何度も裾を踏んでしまうため、歩きやすい男物の着物と袴で移動することになった。 「私の息子が着ていたものだから、少し大きいかね。丈は繕ったのだけれど」  所謂、形見の着物である。肩幅や丈が桜花には大きかったため、その場で藤が修正した。  元々着ていた物は風呂敷に包む。その時、ポケットからころんと何かが出て来た。それは朱地に金糸で"御守り"と書かれた古めかしい小さな袋であり、桜花は目を細めると懐へ入れる。 「ほう、よう似合うのう。男じゃと言われても違和感無いっちゃ」  柿渋色の着物、縦縞模様の袴に身を包み、髪は紐で後ろに一つに束ねられた。そして脇差という太刀より短い刀と、薄緑を左腰に差す。元々付けていたブラジャーは切られていたため、晒しを巻いた。  何処からどう見ても"武士"のような装いに、桜花は困惑した。このような格好をすれば逆に目立つのではないかと何度も言ったが、これが良いと藤も高杉も引かない。無論、折れたのは桜花だった。 「ああ、本当に……本当によく似ている」  藤は目尻に涙を浮かべながら桜花を見る。 「一度、一度だけでいい。母上、と呼んではくれないか」  そのように請われると、桜花は困惑しながら近くにいる高杉を見た。すると高杉は小さく頷く。 「あ、あの……。その、は、……」  恥ずかしそうにそう言えば、藤は唇を噛みながら手で顔を覆った。有難う、と何度も言いながら涙を流す。  状況が飲み込めないが、皺が刻まれた手や顔を見ると何処か切ない気持ちになった。これまでずっと、このように人里離れた場所で一人だったのだろうか。  また、母とはこのような感じなのだろうかと胸の奥が暖かくなる。気付けば桜花の頬にも雫が流れていた。 「な、何故桜花まで泣くんじゃ」 「え、あの、何でだろう。釣られてしまって……」  その言葉に高杉はやれやれと肩を竦める。  やがて桜花と高杉は揃って家を出ていった。また来ることを約束して、後ろ髪引かれる思いで歩みを進める。
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