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余程駕籠に揺られたのが身体に堪えたのか、部屋に入るなり沖田は膝を付く。
それに驚いた桜司郎は慌てて床の支度をし、袴を脱がせると横たわらせた。
「……情けないなァ。たったあれだけの行軍でこのザマです」
幾許か楽になったのか、少し時が経ってから沖田がか細い声を出す。血を吐いていないだけマシだと言えよう。
「沖田先生……。どうしても甲府まで行かねばなりませんか……?私は、お身体の方が心配です」
布団の横に投げ出された冷えた手が少しでも暖まるようにと、両手で握った。そうすれば、沖田は優しげに目を細める。
「ええ……。伏見の時は、置いてけぼりにされましたが……。此度は良いと言って下さったのです。……己の身体のことは弁えているつもりですが、我儘を言わせて下さい。貴女には心労ばかり掛けて、済まないと思っています」
療養して少しでも生き長らえるのではなく、やはり武士として死にたいのだろうかと、桜司郎は眉を寄せた。
部屋の端に置いてある行灯の火が風に揺らめき、時折消えそうになる。
──もしかすると、此度の戦は沖田先生の為なのかもしれない。
ふと心当たりが過ぎった。確かに近藤は、沖田の死に際について気にしていた。そして武士として死なせてやりたいとも。一度そう思えば、そうとしか思えなくなった。
「……いえ。沖田先生の、人生ですから……。私は……、お支え出来れば、それで……」
やはり、近藤と沖田の絆の前には己は無力なのだと思い知らされた気になる。どれだけ想いを寄せようと、過ごしてきた時間は埋められない。
臓腑を掴まれたような嫌な心地に包まれた。
「桜司郎さん……?」
「そろそろ寝ましょう。明日も早いですから」
そう言うと、繋がった手を離して桜司郎は立ち上がる。お休みなさいと言い残して出て行った。
沖田は彼女が居た場所を見詰める。妙に寒く、寂しく思えた。
動きの悪い、枝のように細くなった自身の手のひらを天井へと翳す。一歩歩く度に身体は軋み、気怠さで心が悲鳴を上げた。
それでも着いていかねばならぬのだ。
「せめて……、日野までは…………」
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