第伍拾弐話【甲陽鎮撫】

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 しかし、土方からの報が届くのを待たずに翌日には開戦となる。  たったの二門しかない砲台も、旧式の銃も、加盟したばかりの農兵の手には余る代物だった。銃弾が届く前に、新政府軍の洗練された行軍に臆して何人もの脱退が相次ぐ。 「──斬りこみだッ、斬りこみをかけるッ!!!」  近藤は後遺症で震える右腕を何とか動かし、刀を抜こうとした。しかし、満足にそれすら出来ない。  見かねた永倉に原田、山口らが隊士を率いて、決死の斬り込みへと向かった。  近藤は護衛役の桜司郎と共に、本陣へ残った。今度は大坂城の時とは違い、銃砲が直ぐそこに聞こえる。駆け出して行きたいはずなのに、身体が動かないもどかしさに歯軋りをした。  その様子を少し離れたところで見ながら、桜司郎は眉を顰める。彼の焦燥は痛いくらいに伝わってくる。だが、それは時に判断を鈍らせ、己を追い詰めるものに成りうるのだ。  そう分かっているのに、気の利いた言葉の一つすら思いつかない自分に苦笑いをする。  近藤は落ち着かない様子で、ウロウロとし始めた。思い詰めた表情で、何かをブツブツと呟いている。 「…………俺が、寄り道などしなければ……こんなことには……ッ」  掠れたそれは桜司郎の耳へと入った。ツキンと胸が痛む。 ──それは局長だけのせいでは無いのに。どうして私を責めようとされないのか。  そもそも下手な企てをせずに、皆を巻き込んで正直に話していれば回避出来た未来もあったのかもしれない。  こんな状況だからか、今更にもそう責任を感じてしまう。  空を見上げると、晴れ間が覗いているというのに何処かで砲声に似た雷鳴が聞こえた。  
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