第伍拾弐話【甲陽鎮撫】

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 存外に永倉らは善戦していた。だからか、新政府軍は総力戦に乗り出し、圧倒的な兵数差で押してきた。開戦して一刻も経たないというのにも関わらず、次々と敗戦の戦況を伝える隊士が本陣へと駆け込んで来る。 「近藤先生ッ!援軍さ、まだけ!?」  農兵のうちの一人の声に、近藤は首を横に振った。恐らくは退の一声を欲しているのだろう、何人もの兵士が近藤の名を呼んでは群がる。 「もうすぐだ、もうすぐ援軍が来るッ!それまで持ちこたえてくれ……!」  だが、どの声に対しても援軍が来ると言い聞かせていた。  そうしているうちに、砲声が近付いてくる。地面が揺れ、火薬の臭いが鼻腔を掠めた。決断したように、桜司郎は近藤へと近寄る。 「──局長、此処も直に攻め込まれます。別の場所へ移動しましょう」 「何を言う!大将が本陣を離れるなど、あってはなら──ッ」  言い切らぬうちに、爆音と共に大地が揺れる。立っていた年端もいかない小姓達が悲鳴を上げた。  気付かないうちに、背後の山へと回り込まれていたのだ。大砲やら鉄砲やらを打ち込まれ、近くの木や草が燃える。 「おーいッ!!!駄目だ、もうこれ以上はどうにもならねえッ!!」  そこへ斬り込みをかけていた永倉らが息を切らしながら、転がり込んできた。返り血と煤に塗れ、凄惨な姿となっている。 「近藤さん、撤退だ!早くしねえと、そこまで新政府軍が来ているぜッ」 「な、ならん……。歳が、いや、内藤君が援軍を……会津の援軍を連れてくるはずだ。故に、それまで──」  その言葉を聞くなり、原田はズカズカと歩みを進めては近藤の両肩を掴んだ。その目は血走っている。 「あんたの目は節穴かッ!?もう俺たちは敗けたんだ、勝機は万に一つも無えッ!……見ろッ、火の手も上がり始めてるッ!焼け死ぬか、討たれるかの二択だ!良いな、撤退させる!」 「う…………」  あまりの気迫に言い淀んでいるうちに、原田はさっさと撤退命令を出し始めた。
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