第九章  最強の敵

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二階堂は何も言わなかった。 いや言えなかった。 あのふてぶてしさを絵に描いたような龍夜が、尋常でなく動揺している。 そして表面上はあくまで静かながらも、その内面においては何かを押し殺して必死に耐えているように見える、十歳の少女であるゆづき。 その二人の雰囲気に完全に飲まれていた。 ややあって、何かを思い出したかのようにゆづきが言った。 「他に、何か質問がございますか、二階堂様」 「……いや、ない」 「そうですか。わかりました。誠にお手数をおかけいたしました。 ……龍夜様、二階堂様をお送りしてくださいませ」 「……わかった……おっさん、もうおうちに帰るぜ」 龍夜は立ち上がるとまだ座っていた二階堂の手を取って、大根でも抜くようにその体を引き上げ、有無を言わさず外に引っ張って行った。 後にはゆづきが一人残された。 その黒い瞳は涙で濡れていた。      ・ バイクが二階堂のアパートに着いた。 二階堂がバイクから降りると、龍夜は何も言わずにその場を走り去った。 二階堂はそのまま龍夜の後ろ姿を見送っていたが、やがて自分の部屋へと戻っていった。
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