勇者は臨也?

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―――――――――― ―――――――― ――――― 薄暗く湿気の多い部屋。部屋というのにはあまりにもデカイが。 そんな中、一人膝をつき跪いている者がいた。 薄暗く表情は伺えにくいが、何やら神妙な雰囲気を感じる。 その者とは、悪魔もといデーモン。 臨也に完膚なきまでに叩きのめされた者だ。 「――――――以上が報告です。 ・・・・・・"魔王"様」 最後の言葉には、どこか弱々しいところがある。 まるで、何かを恐れているような。 『・・・・・・そうか』 ただ一言それだけを告げる。 まるで、音声を合成したような声。 しかしその言葉には、何やらとてつもない圧力を感じさせる。 その者こそが魔王。 この世界にあらゆる混沌を持ち出した張本人。 だが、その"者"と呼ぶにはいささか変なものを感じる。 なぜなら、デーモンが話しかけた魔王と呼ぶモノ。 それが、パッと見は"球体"だからだ。 野球ボールなどとは違う、重量を感じさせないと直感する。 『私は、後数週間で体の再構築が完了する。それまでは、この場所が他に漏れぬように動け。以上だ。下がれ』 魔王が告げる。 だが、その命令を受けたデーモンは何やら意外そうだ。 「魔王様!お咎めはないのですか!?私はたかが人間にのめされたのですよ!!」 魔王への忠誠心からか。 黙ってればいいようなものを、自らのミスを指摘する。 『別に構わん。それに、元々お前ごときが勝てるような相手じゃないのはハッキリした。 今の報告でな』 「なっ・・・。ですが、相手は・・・」 『下がれ、と言ったはずだが』 目など存在しないはずなのに、蛇に睨まれた蛙のごとく威圧感が出る。 それを感じ取り、即座に黙り込むデーモン。 「・・・・・・では、失礼します」 デーモンがそう言うと、魔王に一礼をし、背を向け扉に向かう。 その場で消えないのは悪魔世界での社交辞令のようなものだろう。 デーモンが出たのを確認すると、魔王は思考する。 (・・・・・・まさか、そいつがこの世界にとっての"異物"なのか?) (ソノザキ・リンヤ。漆黒の髪・・・) デーモンから受けた報告にある漆黒の髪の少年。 どういう事情からか、それが魔王を懸念させる。 『時間が、ないな』 つい、声に漏らす。 もっとも、この場には魔王以外は居ないので問題はないが。 『早く体を構築しなければ。 世界が滅びる前に』 この言葉がはたしてどういう意味を持つのか。 それは、魔王のみぞ知る。
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