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『記憶喪失…でしょうね』
医者は、いとも簡単に私にそう告げた。
『そんな…!だって彼女、自分のこと以外はわかってるし』
私より先に口を開いて言ったのはさっきの彼。
私はというと、まだ言葉の意味を理解出来ないでいた。
記憶喪失…?
『そうですね…あなたの場合、生きていくための必要な知識は残ってる。ただ自分や、自分を取り巻く環境を忘れてしまう記憶喪失です』
『よほど精神的ショックが大きいと、このような症状が出ることがあります』
私が、 …記憶喪失。
「さっき、思い出そうとしたらひどい頭痛に襲われて」
それは思い出したくないから?
でも…私はどうしたらいいの?
『記憶喪失は、次第に時間が経つにつれ思い出すことも多々ありますよ。』
そんな医者の言葉は、今の私にとって無意味だった。
『バックも何も持ってないし、身元も分かんねえもんな…』
困ったように頭を掻く彼。
そうだよ。
私は身元も何もわからない。
思い出せない。
いつか思い出せるって?
それまでどうしたらいい?
色々な思いが溢れて、
目から熱い涙も溢れてきた。
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