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そもそも僕は、自分自身が会社の中で組織の一員として人に使われながら自分が仕事をしている姿を想像することができなかった。
僕にはそもそも協調性というものが欠けている。
誰かにそのように言われたというわけでもないのだが、自分自身がそのことを一番感じていた。
もっと言えば、社会適合性というものもそれほど備わっていないように思う。
だからといって、自分で起業して会社を経営していくだけの才覚もなければ、独立開業することができるような資格を取得することができるだけの知能もない。
そんなとき、僕はたまたま書店の店先で立ち読みした文芸雑誌に小説の新人賞募集の広告を見つけた。
僕はそれを見た瞬間に、これだ、と感じた。
文章であれば誰にだって書くことができる。
それに、僕はもともと何かを作り出すというのが好きな質の人間なのだ。
加えて、僕は本を読むのが好きだった。
読むのは主に小説だったが、小説であれば分野を問わず、恋愛物からファンタジー、ミステリー、本格推理、ホラーと何でも読む。
もしも小説家になることができれば、誰かに使われることもなく、自分の描きたい世界を文章で紡ぎながら一生を過ごしていけると僕は考えたのだ。
僕はその雑誌を買って自宅に戻ると、募集要項でページ数や期限をしっかりと確認してから、パソコンに向かった。
描いてみたいと思っていた世界はいくらでもあった。
それは、かなり具体的な形で僕の頭の中に存在したし、それを文章にすること自体はそれほど難しいことではないように感じていた。
しかし、いざその世界を文章にしようと、パソコンのモニターを睨みながらキーボードを叩いてみると、全くといっていいほど指が動かないのだ。
それでも何とか文章の形にしてみようと必死にキーボードを叩くのだが、モニターに表示される文章は、僕の描きたい世界とは全く別のものとして作り上げられてしまう。
僕は書いた消しては書き直し、また消しては書き直すという作業を続けた。
だけど、どんなに僕が書き直したところで、僕の描きたい世界がそこに浮かび上がることは決してなかった。
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